碧き記憶が語る夜_残響

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碧き記憶が語る夜_残響 [2025/11/04] – 作成 メンバー碧き記憶が語る夜_残響 [2025/11/07] (現在) メンバー
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 霊薬研究との関係も――地元では「切り裂きジャッキー」再来の噂 霊薬研究との関係も――地元では「切り裂きジャッキー」再来の噂
- フォンシェンの名門道場「影蛇館(えだかん)」の現道場主、**シニィク氏(38)**が今月初旬より消息を絶っていることが分かった。+ フォンシェンの名門道場「影蛇館(えだかん)」の現道場主、**シニィク氏(38)**が今月初旬より消息を絶っていることが分かった。
  一部では、道場地下に古来より伝わる“霊薬の隠し庫”が存在するとの噂もあり、霊薬をめぐる争いの可能性が取り沙汰されている。  一部では、道場地下に古来より伝わる“霊薬の隠し庫”が存在するとの噂もあり、霊薬をめぐる争いの可能性が取り沙汰されている。
  また、近隣住民の間では、かつて無差別殺人事件を引き起こした“切り裂きジャッキー”出現時に聞かれたとされる不気味な音――“カタカタカタ”が夜に響いているとの報告もあり、恐怖が広がっている。  また、近隣住民の間では、かつて無差別殺人事件を引き起こした“切り裂きジャッキー”出現時に聞かれたとされる不気味な音――“カタカタカタ”が夜に響いているとの報告もあり、恐怖が広がっている。
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 姉は無差別殺人犯“切り裂きジャッキー”――再び不穏な影 姉は無差別殺人犯“切り裂きジャッキー”――再び不穏な影
- リージョンを超えて高い評価を受けているピアニスト、ムニ=シンクレア氏(24)が公演直前に行方不明となっている。直前に金庫開錠騒動の被害届取り下げがあったものの、何か関係があるのではとの見方も強まっている。+ リージョンを超えて高い評価を受けているピアニスト、ムニ=シンクレア氏(20)が公演直前に行方不明となっている。直前に金庫開錠騒動の被害届取り下げがあったものの、何か関係があるのではとの見方も強まっている。
  彼女の姉は西方諸島で恐怖をまき散らしている連続殺人犯“切り裂きジャッキー”ことジャッキー=シンクレアであり、今回の失踪を受けて市民の間では「血の因果ではないか」との憶測が飛び交っている。  彼女の姉は西方諸島で恐怖をまき散らしている連続殺人犯“切り裂きジャッキー”ことジャッキー=シンクレアであり、今回の失踪を受けて市民の間では「血の因果ではないか」との憶測が飛び交っている。
  なお、シンクレア家はかつて“霊薬強盗事件”で両親を亡くしており、今回の道場主失踪との関連を指摘する声もある。  なお、シンクレア家はかつて“霊薬強盗事件”で両親を亡くしており、今回の道場主失踪との関連を指摘する声もある。
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 という流れです。 という流れです。
 +
 +--> 集めた情報#
 +**情報1 調査結果 名簿**
 +君は机の上に置いてある名簿を見た。
 +君たちのフルネームと職業が書かれている。恐らくノワもこの名簿を見つけて君たちにコンタクトをとったものと思われる。
 +
 +〜〜
 +〜〜
 +_________________
 +ムニ=シンクレア ピアニスト
 +ノワ=タケナカ 探偵兼アークス
 +フヨウ=ディンライ 霊媒師兼アークス
 +
 +アークスとして呼ばれていないものもしくアークスでないものも数名いるようだ。
 +
 +調査終了。
 +
 +**情報2 調査結果 霊薬図鑑(送るやつ間違えてました…)**
 +
 +
 +出版:白玄書院/〇〇年(初版発行より9年経過)
 +紙は日焼けで黄ばみ、端がめくれた頁にはかすかな鉄錆の匂いが染みついている。
 +インクは褪せ、ところどころに黒い指跡がある。
 +万年筆の跡で残された細い書き込みは、慎重な手で書かれたように見える。
 +しかし、一部のページは強く押し込むような筆圧が残り、感情の揺れを感じさせた。
 +君は書き込みのある頁について読み込むことにした。
 +
 +【水霊信果(すいれいしんか)】
 +
 +外見:半透明の青玉のような果実。触れると冷たい水滴が滴る。
 +効果:服用者の内功を著しく高め、気の流れを極限まで研ぎ澄ませる。
 +副作用:精神の均衡を失い、怒りや恐怖といった感情が極端化する。
 +「飛燕館の地下」と書き込みがある。
 +
 +【焔心蓮(えんしんれん)】
 +
 +外見:紅蓮の花弁を模した結晶。中心は常に微熱を帯びている。
 +効果:体温を高め、肉体の瞬発力と攻撃的気勢を増幅させる。
 +副作用:怒りや焦燥が増す。
 +「シンクレア家・研究棟地下3層冷却庫。生体反応ロック・虹彩認証。死後16時間までは可。夜間は自動封鎖。」と書き込みがある。
 +
 +【玄氷珠(げんぴょうじゅ)】
 +
 +外見:氷塊のように透明で、触れると一瞬で霜が広がる。
 +効果:気の循環を鎮め、痛覚や恐怖心を麻痺させる。
 +副作用:感情表現が乏しくなり、長期服用で肉体が冷えすぎて動かなくなる。
 +
 +【風脈花(ふうみゃくか)】
 +
 +外見:乾いた羽根のような花弁を持つ草。軽風に揺れると音を立てる。
 +効果:服用者の動体視力と反射速度を短時間だけ極限まで高める。
 +副作用:使用後、極度の倦怠感と関節痛を伴う。多用は命に関わる。
 +外見:夜光を放つ薄紫の茸。闇の中で月光のように光る。
 +効果:使用者の感覚を研ぎ澄まし、霊的存在の気配を捉えやすくする。
 +副作用:現実と幻視の境界が曖昧になり、長期服用で精神錯乱を起こす。
 +
 +
 +調査終了。
 +
 +**情報3 調査結果**
 +
 +
 +「月刊ミステリック」7月号 特集記事
 +
 +
 +見出し
 +
 +「“眼鏡の少女”が追う——痕跡の光を辿る新星探偵、ノワ=タケナカ」
 +
 +本文
 +
 +わずか20歳にして未解決事件を“視る”ことで解決へ導いた少女・ノワ=タケナカ。
 +彼女は事件現場に残された“痕跡”を眼鏡越しに捉え、
 +そこに宿る人の意志や感情を読み解くという。
 +最近では、クヴァリスキャンプで発生した盗難事件で
 +現場に残された僅かな証拠から犯人に繋がる決定的証拠を発見した。
 +
 +「運が良かっただけです。痕跡と言っても人物は酷くぼやけて見えていて…男女の区別もつかないくらいです。分かるのは…髪の長さくらいかな。」
 +——ノワ=タケナカ(事件後のコメント)
 +
 +調査終了。
 +
 +**情報4 調査結果 宝石ライト**
 +君は一風変わったライトが目につき、これを調べることに決めた。
 +
 +このライトは宝石で包まれていて、光が乱反射しとても綺麗である。細かい装飾を見るに結構高価な代物であることが見て取れた。
 +
 +しかし、ここ数年は手入れをされていないのか埃が被っている。
 +
 +調査終了。
 +
 +
 +
 +**情報5 調査結果:大量のノート**
 +
 +君は机の引き出しから積み上げられた十数冊のノートを見つける。
 +どれも端が擦り切れ、表紙には薄く汗の跡が残っている。
 +ざっと目を通すと、全てが練習記録のようだ。
 +日々の稽古内容、動きの分析、反省と目標、
 +その筆致は几帳面で、ところどころ紙がにじんでいる。
 +やがて、ある時期を境にノートの下部に日記のような記述が現れ始める。
 +---
 +「◯月☓日 今日は親善交流会があった。
 +師範代が“気持ちの整理に日記を書くといい”と言っていた。
 +試しに書いてみようと思う。」
 +「◯月☓日 またスーフェンが語火の途中で話しかけてきた。
 +“どうしても型がうまくいかない”と泣き言を言っていた。
 +聞いていると苛立つ。努力すればできるはずなのに。
 +できるまでやるのが努力だというのに。
 +彼女はまだ“努力”という言葉の意味さえ知らない。」
 +「◯月☓日 右腕の動きが鈍く、痛みが引かない。
 +医者に行ったら疲労骨折と言われた。
 +一ヶ月安静にしろと言われたけど、そんな時間はない。
 +一日休めば、取り戻すのに二日かかる。
 +テーピングで固めれば動ける。痛みくらい、問題じゃない。」
 +「◯月☓日 初めてスーフェンに負けた。
 +彼女が強くなったわけじゃない。
 +私の身体が、思うように動かないだけ。
 +情けない。努力が足りない。」
 +「◯月☓日 身体が自分のものじゃないみたい。
 +動かそうとしても、力が入らない。
 +骨が歪んだまま癒着していると言われた。
 +手術が必要らしい。
 +母さんが“縁談があるから、しばらく安静にして考えなさい”と言ってきた。
 +……今の私に、そんな気分になれるわけがない。」
 +---
 +最後のページの筆跡は乱れ、
 +文字の圧も弱々しい。
 +そこから先のページは真っ白だ。
 +インクの滲んだ指跡だけが、最後までノートを握っていた痕跡を残している。
 +調査終了。
 +
 +**情報6 調査結果 比較的新しいノート**
 +君はノートに目を通した。
 +日記のようだ。紙は比較的新しく、筆跡も落ち着いている。
 +---
 +「◯月☓日」
 +しばらく忙しくて書く時間もなかったけれど、思い出しながら少しずつ書いていこうと思う。
 +手術のあと、全てがどうでもよくなって島を出た。
 +けれど外に出てすぐに気づいた。
 +私は世間を何も知らない、ただの小娘だったということを。
 +仕事を探しても、人とうまく話せず、何もできなかった。
 +そんな私を拾ってくれたのが“ママ”だった。
 +---
 +「◯月☓日」
 +スナック『ランカイフォン』で働き始めた。
 +最初は何もできず、情けなくて仕方がなかった。
 +それでも先輩のイェディエさんがいろいろ教えてくれた。
 +彼女は武術などしていなかったけれど、よく笑い、よく人の名前を呼び、誰とでも自然に打ち解けていた。
 +彼女の周りにはいつも人がいて、みんなが彼女を好いていた。
 +強さとは何か、初めて考えた。
 +私は武力しか価値を測る物差しを持っていなかったけれど、世の中にはいろいろな“強さ”があるのだと知った。
 +---
 +「◯月☓日」
 +今日、初めてアークスが戦うところを見た。
 +師範代クラスの達人でようやく敵うドールズを、彼はまるで子どもの遊びのように退けていた。
 +その瞬間、フォンシェンの異常さに気づいた。
 +あの島では、武術という“対人の技”を、ドールズという異形の存在に向けて磨き続けていた。
 +どれだけ鍛えても無手では敵わないのに。
 +もし本気で抗うなら、武器を持ち、連携を学び、フォトンの扱いを鍛えるべきなのに。
 +そう考えた途端、私の中に怒りが湧いた。
 +両親に、師範に、そして武術そのものに。
 +---
 +「◯月☓日」
 +久しぶりにスーフェンのことを思い出した。
 +私は、彼女に苛ついていたのではなかった。
 +ずっと――羨ましかったのだと思う。
 +弱くても母に認められ、慰められていたこと。
 +人前で涙を流しても、誰にも責められなかったこと。
 +私は“強いか、弱いか”でしか人を見られなかった。
 +だから弱さを持つ者にも、自分の弱さにも、優しくなれなかった。
 +怪我をして動けなくなったとき、自分を責め続けたのもそのせいだ。
 +すぐに変われるとは思わない。
 +けれど、いつかは自分の弱さをそのまま受け止めて、心から赦してあげたい。
 +そう思うようになった。
 +---
 +これが最後の日記のようだ。
 +調査終了。
 +---
 +
 +**情報7 ウェストタイムズ**
 +
 +
 +《ウェスト・タイムズ》
 +
 +発行日:ハルファ歴〇〇年〇〇日/第3001号
 +
 +〈切り裂きジャッキー〉16人目の犠牲者 元医療従事者、恐怖の軌跡
 +
 +ハルファ歴〇〇年〇〇月〇〇日 記者:リュウチェン
 +
 +「カタカタカタ……」
 +夜の静寂を裂くような金属音が聞こえるとき、また誰かが命を落とす——。
 +セィチェン島北区の裏通りで今月17日夜、男性(38)の遺体が発見された。遺体には鋭利な刃物による多数の切創があり、いずれも致命傷。現場に残された血痕は複数方向に飛散しており、強い殺意と長時間にわたる暴行を示しているという。
 +この事件で、通称「切り裂きジャッキー」による連続殺人の被害者は計16人に達した。
 +---
 +
 +■ 元医療従事者、消えた“天才外科助手”
 +
 +被疑者とされるジャッキー=シンクレアは、かつて本島総合病院に勤務していた医療技術者で、外科部門の助手として卓越した技術を持っていたとされる。
 +だが、数年前の交通事故で右足を失い、義足生活を余儀なくされた。事故を境に彼女は職場を退職し、消息を絶った。
 +同僚の話では、事故後の彼女は強迫的行動に悩まされていたという。
 +警察は、現場付近で聞こえるという“カタカタカタ”という音が、彼女の義足が地面を打つ音である可能性を指摘している。
 +---
 +
 +■ 住民の恐怖、再燃
 +
 +事件のたびに封鎖される街路、夜間に響く金属音。
 +「最近は風の音さえ怖い」と語る住民も少なくない。
 +中には、〈切り裂きジャッキー〉を“怨霊”や“実験の亡霊”と信じる者もいる。
 +警察は引き続き西方諸島全域の捜索を行っているが、発見には至っていない。
 +---
 +
 +
 +編集部註:
 +クヴァリス西方諸島で発生した過去最大級の連続殺人事件。
 +16名という数字の裏には、それぞれに家族、生活、そして物語があった。
 +“切り裂きジャッキー”がどこに潜んでいるのか、あるいは既にこの世にいないのか——
 +いずれにせよ、〈カタカタカタ〉という音が再び夜を裂く日が来ぬことを願いたい。
 +
 +**情報8 調査結果 シンユェ**
 +
 +君は茶屋の主、シンユェに聞き込みを行った。
 +
 +「前の道場主…リウイェンっていうおじいさんだよ。あの人、息子夫婦が亡くなってからもしばらくは道場を持っていたけど…ある日急に手放しちゃったんだよね。私も連絡取りたいんだけど…取れないんだよね。」
 +
 +「っと、そんなことより何か食べてってよ!こっちもそっちの質問に答えた訳だしさ!」
 +
 +シンユェがメニューを取り出し、一つの商品の前にその指先が止まる。
 +
 +「シーイェンガオ。私の妹…あ、さっき言ってた息子夫婦の妻の方ね。彼女が作ったメニューでさ、あの頃はハルファ中に広まるようにって張り切って考えてたよ。今ではうちの看板メニュー。これおすすめ!食べてみてよ!」
 +
 +シンユェの強い押しで君はシーイェンガオを購入することになった。かなり甘い蒸し菓子のようだ。
 +
 +調査終了。
 +
 +**情報9 調査結果 スーフェン**
 +
 +「前の道場主? それならシァイェンのことじゃないかな。
 +私が通ってた頃は、師父のライイェンさんと奥さんのクァシンさんが“飛燕館”って道場をやっててね。
 +でも、ライイェンさんが修行中に、クァシンさんは組手中の事故で亡くなっちゃったの。
 +それで跡を継いだのが、ライイェンさんのお父さん――リウイェンさん。
 +そのあと一時だけ帰ってきたシァイェンが、正式に道場を引き継いだんだけど……すぐに道場を売っちゃったんだ。
 +まあ、私の記憶違いじゃなければ、だけどね。」
 +スーフェンは笑いながら包み紙を折りたたむ。
 +「じゃ、私、肉まんが冷める前に帰るね!母さんにも持って帰ってあげたいから!」
 +
 +調査終了。
 +
 +**情報10 調査結果 メニュー表**
 +君は時間をかけてメニューをじっくりと眺めることにした。
 +1. 揚枝甘露(ヨンジー・ガムロ)         さいの目に切ったマルゴー、ポメロー、サゴ(サゴヤッシィのでんぷん)、ココナッツミルク、ミルクが入っています。とろっとした食感と甘い味わいが特徴です。800メセタ
 +2. 飛天糖霜(フェィティエン・タンシュアン) 口溶けの軽い砂糖菓子。700メセタ
 +3. 思燕糕(シー・イェン・ガオ) 「思燕」という言葉で「燕を想う」という意味があります。「糕」は蒸し菓子を指します。包装をほどくと白い蒸気が立ち上がり、温かくもっちりとした食感としっかりした甘さが特徴です。800メセタ
 +4. 鶏蛋仔(ガイ・ダンジャイ) ベビーカステラを繋げたような見た目が特徴的です。ほんのり甘く、ぽこぽこの中は半分は生地、半分は空洞になっていてサクサク・もちもちの食感を味わうことができます。900メセタ
 +5. 羽香杏仁(ユーシャン・シンレン) 「羽の香り」をイメージした杏仁豆腐風のデザートです。軽やかで優しい味わいです。700メセタ
 +6. 肉まん(ニク・マン) みんなご存じの肉まんです。ジューシーで美味しいです。600メセタ
 +
 +君はこのメニューから注文することもできるし、注文しないこともできる。店で食べることも持ち帰ることもできる。全ては君の自由だ。
 +
 +調査終了。
 +
 +<--
 +
 +--> ログ#
 +https://share.evernote.com/note/2391bb91-c845-222c-7db7-96422f3b65cd
 +<--
 +
 +--> その後#
 +風が、墓地の高台を抜けていく。
 +鈍い月光が雲間からのぞき、墓碑に刻まれた名をかすかに照らした。
 +シァイェンは静かに立っていた。
 +手には、小さな包み。
 +それをほどくと、白い蒸気が夜気に溶ける。ウタウから貰ったシーイェンガオ。思燕ー「燕を想う」という意味が込められた母が作っていた菓子…らしい。叔母らしき人から聞いた。
 +「……なんかさ」
 +ぽつりと、笑うように呟いた。
 +「私に気持ちが伝わるようにって、頑張ってお菓子作ってたんだってね。
 +こんなの、リージョンを超えて広まっても私、気づかないのに……馬鹿じゃないの。」
 +ひとくち、食べる。
 +甘さが舌に触れ、ゆっくりと広がる。
 +その味は、記憶のどこにもないのに、なぜか懐かしかった。
 +「……それに、甘すぎ。私、甘すぎるのは好きじゃないって……十八年も一緒にいて気づかないなんて。
 +ほんと、どうかと思う。」
 +風が吹く。
 +枝葉が擦れ、遠くの鈴虫が鳴いた。
 +その音に紛れるように、シァイェンの声が震え始める。
 +「……私もさ。お母さんが私のことを大切に思ってるなんて、全然気づかなかった。
 +あはは……お母さんの血かな、これ。二人して鈍臭すぎる。」
 +彼女は肩を震わせ、こらえきれずに嗚咽を漏らした。
 +月が、雫のように光を落とす。
 +「……っ、なんで……なんで私、もっと早く知ろうとしなかったんだろう。
 +お母さんが私を大切に思ってくれてたことも……お酒が好きだったことも……
 +全部、全部人づてで。
 +なんで……死んじゃったの……。」
 +言葉の切れ端が、夜の中に吸い込まれていく。
 +彼女は袖で目元を拭い、小さく息を吐いた。
 +「ねえ、お母さんたちさ……昔、いろんな道場の人と交流してたんだってね。
 +一緒に訓練したり、お酒飲んだりして。
 +…私ね、今からでも……お母さんたちのこと、知りたいって思ってる。
 +だからこれから、いろんな島に行って……お酒を飲んで、お母さんたちの話を聞いてみようって。
 +もう遅いかもしれない、ううん、きっと遅いんだよね。
 +でも……それでも、ちゃんと知りたいから。」
 +シァイェンは腰の酒瓶を取り出し、墓前の盃に二杯、静かに注ぐ。
 +液面が月を映し、淡く揺れた。
 +「これ、極上なんだって。どう? 美味しい?」
 +彼女はひと口、自分の杯を傾ける。
 +「おおー……穏やかで、気品のある香味。それに、すごい透明感のある澄んだ味わい……。
 +…生きてる間に、こういうことしてればよかったのにね。」
 +風が止む。
 +墓前の花が何かに答えるように微かに揺れた気がした。
 +シァイェンは酒瓶を置き、背を向けて歩き出す。
 +その顔には、まだ後悔の影が残る。
 +けれど、頬に流れる月光はどこかやわらかく、
 +まるで、何かがようやく解けていくようだった。
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 +六年の歳月を超えて届いた声。
 +その残響が、彼女の心を少しだけ軽くした。
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