顔合わせから数週間が経った。
その頃には研修生は皆養成学校生活に慣れ、順調に座学に実技、通信機器の取り扱いなどを学んでいた。
俺自身も、実技が同期たちの中でも最下位に近いレベルであることがムカつくが、それ以外に授業で目立った不満点はない。
……そう、授業では。
問題はメシの時間にある。
養成学校内のカフェで基本は昼メシをとるのだが、問題は、俺が注文したものを持って席についた時に決まって起こる。
「奇遇だな。私も昼食を共にしていいか」
「うちも!早く食べよ、お腹空いちゃった」
片や絶対に奇遇だなんて思っていない確信犯的な笑顔、片や純粋で無垢な子供のような笑顔を向けてくる。
「……いや、お前ら二人で食べろよ」
「え、何で?ご飯食べる時は人数が多いと楽しいって、ばっちゃんが言ってたよ?」
顔合わせの時につっかかってきた優等生・アズライルと、ユリなんとか改めユリティア。
この二人が俺の昼メシを邪魔してくるのだ。ああうぜえうぜえ。
俺は一人で食べたいのに、コイツらはすまし顔で「奇遇だ」と言ってはこうして俺の向かいに座る。
ユリティアの前に鎮座するカフェ名物の3段ハンバーグの圧が凄い。最初は「コイツ食いきれるのか?」と思ったが、瞬く間に平らげてしまうのでもう心配はしてない。
……いや、心配なんて最初からしてない!
知ってるぞ、お前らがカフェの隅で俺が座るまで様子を伺ってること。奇遇も何もあるかよ。
何度追い払おうとしても、二人が退くことはない。そんな現状に慣れつつある俺に一番イラつく。
今日も三人での昼メシになってしまった。
雑な返事をする俺を気にすることなく、二人は他愛ない話をしていく。
「そういえばユリティア、君はアークスの資格取得のみの希望だと聞いたが。何かやりたいことがあるのか?」
「あ、うち?うちねえ、アークスの資格持ちの環境調査官になりたくて。だから2年後の試験に合格したら、アズライルくんやセナくんとはお別れかもなんだよ」
「それは寂しくなるな。しかし環境調査官か……確か、動植物や建造物の保全活動を行う役割だったな」
「そうそう!うち動物とか植物好きだし。アズライルくんとセナくんは、そのままアークスになるの?」
アズライルが「私はそうだな」と頷いたため、ユリティアの視線が俺の方へ向けられる。
会話に交ざるのも面倒だが、これは答えないとずっと彼女の視線は俺に刺さったままとなる。
「俺もアークス。ここに来たなら大体がそうなるだろうが」
「えへへ、そっかあ。うちみたいなのはあんまいないもんねえ」
無邪気に笑って3段ハンバーグを頬張るユリティア。ホントよく食うよなお前。
なんだか一生懸命好物を頬張る子供を見ているようで微笑ましい。
……?俺は今微笑ましいって思ったのか?
急にユリティアが食事の手を止めて、じっとこちらを見てきた。ついでにアズライルも驚いたようにして俺を見ている。なんだなんだどうした。
少しの沈黙の後、ユリティアがにぱっと笑った。
「セナくんが初めて笑ったー!これは記念日にしないとだね、アズライルくん!」
「は!?ばっ……俺がいつ笑ったんだよ!」
「ホントよく食うよなお前って言って笑ったじゃないか」
あれ言葉に出てたのか!あー……やらかした。最っ高にやらかした。
写真撮ろ、と言ってユリティアが端末を取り出したのが見えた。逃げようとしたが、アズライルに手を強く掴まれていて動けない。
右側をユリティア、左側をアズライルに挟まれて身動きが取れない。
「セナくんが笑った記念だよ!はいチーズ!」
無情にもシャッターは切られた。
☆
”今日の記念だよ!毎年お祝いしようね!!”
そんな言葉と一緒にメールで送られてきた写真。
面倒ながらも開いてみると、そこに映っていた自分の顔に驚いた。
心底楽しそうに笑って俺をぎゅうぎゅうと挟む二人。その真ん中にいた俺は、てっきり不満そうな顔をしていると思いきや、照れくさそうに笑っていたのだ。