ある一族の物語

年号が新光歴に切り替わった頃、製作されたばかりのキャスト数百人の大部隊がひとつの宇宙船に乗せられ、宇宙を航行していた。
元はすべて身体の一部あるいはすべてを機械の身体にした人間である。

この時同じような宇宙船が何隻もアークスシップから発進していた。
彼らの目的は深遠なる闇の撃破であるが、上層部は撃破できるとは思っていなかった。
せいぜい有力な情報を得られれば良い、その程度の期待であった。

そんなことは知らずに、彼らは宇宙に放り出された。
やがてひとつの船が故障により航行ルートを外れ、異空間への入り口に入ってしまう。
この異空間への入り口がなぜ開いていたかは誰にも分からない。

やがて異空間を通り抜けた宇宙船は別の宇宙に出て、付近の惑星へ不時着する。
大気があり、海や山があり、樹木がある。生命が存在できる惑星だった。

「だめだ、連絡がとれない」
キャストの一人が報告する。彼らは異空間を通ってしまったために最早帰るべきアークスシップとは時間軸も空間もすべて違うところに来てしまっていることに気が付いていない。

「仕方ない、航路は向こうも把握しているはずだ。幸い生活できるような設備はすべて宇宙船にあるし、食料も水もこの星なら困らないだろう。ここで救援を待つより他はない」
そう、別のキャストが応える。

不時着した宇宙船のまわりにキャンプを作る。
そのうちにより快適に過ごせるよう、現地の資材を使って家を作り出す。
気が付けば村のような雰囲気が出来上がりつつあった。

間もなくひとりのキャストが報告する。
「この星にはヒューマンがいる」
一瞬助けが来たと思った彼らは、しかしすぐに原住民であることが分かる。
「この星の原住民とのコンタクトは慎重にしなければならない。我々はすぐ立ち去るのだし、見つからないようにしよう」
そう意見がまとまり、彼らは宇宙船にあったステルス機能で村全体を覆うように囲い、見つからないように仕組みを整えた。

そうして待つ間にやがてキャスト達の間に子が産まれ、孫が産まれ、最初に降り立ったキャストは老いて穏やかに死んでいった。

やがてある事件が起きる。
この星の歴史でたった3カ国しかない惑星統一国家、その2つ目の国となった永久王国がまさに崩壊し始めていた。

キャスト達が集まり話し合いとなる。
「長老、なぜ我々は外に出ないのか」
若いキャストが詰め寄る。
「私達はこの星に関わるべきではない、そう父や祖父、先祖から伝え聞いている」
長老格のキャストが答えるが若いキャストは引き下がらない。
「先祖の言う我々が倒すべき強大な敵などという、居るのかも分からない存在をまだ気にしているのか。それより今こそ我ら一族が世のために力を尽くすことが最善ではないのか」
世代を経ることで当初の目的は分からなくなり、この星で代々生まれ育ってきたキャスト達は完全にこの星の住人と化していた。

「よし、分かった。今こそ我らはこの世界に出て行こう」
こうして数百年、誰にも見つからないよう隠れていたキャスト達はこの星の歴史に現れる。

突如現れた彼らに驚いた現地の人間はキャスト達を忍びの者と定義した上で、当時は魔法のようなものと思われていた機械を身体に纏っていること、そしてその強さから「機鬼」と彼らを呼称し、また自分達の名を持たなかったキャスト達も自らこの名を名乗ることにしたのだった。


ここに忍者一族「機鬼一族」が誕生した。


機鬼一族はその後も最強と言われた柱谷一族を退け、天道一族の攻勢をしのぎ、魔藤一族とは長い戦争の日々を過ごしながら生き続ける。
その間にも
「我らの忍術、フォイエのことだがもっと分かりやすい名前にすべきではないか」
「確かにホイエだかフォイエンだか、なぜこんな名前なのか分からなかった」
「よし今からフォイエは火遁・大火球としよう」
とオラクルの名残は消えていく。

そして彼らが最初に降り立ってから長い長い時間を経て、この星に比較的戦争の少ない平穏な時代が訪れる。
機鬼一族も最後まで激しい戦争を行っていた魔藤一族と停戦してから100年経っていた。
そこで新たな忍者の仕事先を探していく内に、最近宇宙外の文明と交流していることを知り、一族の人間を送り出すことにする。

「場所はオラクルと言って、どうやら我々と同じような機械の身体の種族もいる文明らしい」
「キャストと言うらしいな。変な名前だ」
彼らは自分達の祖先がまさにオラクルから来たことなど知りもしない。
最早この宇宙に機鬼一族がオラクルから来たキャストの末裔であることを知る者は誰一人存在しなかった。

「我々が役に立てる場所か見極めるための重要な任務だ。頼んだぞ、機ら凜よ」
大柄なキャストが少女の肩を叩く、「機ら凜」と呼ばれた少女は承知したとばかりに、頷いた。