Attention!
メインストーリー第6章4節のネタバレを含みます。未見の方はご注意ください。
こうかいしませんね?
「マノンが倒れた?」
それは、ERの休憩室にもたらされた報せだった。
珍しく暇を持て余していたERの面々。どれくらい暇かというと、仕事人間のミドリまでもが休憩室でチョコを頬張りながら仕事もせずに談笑するレベルだった。
そんなのほほんとした中、会議から帰ってきたナギサがもたらした報せにより、休憩室には緊張が走った。
「マノンって、星渡りのアークスと一緒にいる、あの嬢ちゃんだよな?」
「たしか、もともとルシエランで、とってもつよいってうわさの!」
外科医のエリク、小児外科医のモモが驚きながら言う。他のスタッフも動揺しているようだ。
そんな中、ミドリは冷静に問いかけた。
「……それで、その原因が何か、ナギサは知っているの?」
「詳しくは私も知りません、たまたま聞こえてきただけなので。ただ……」
「ただ?」
「どうやら原因は、彼女のフォトンに関係がある、らしいです」
「……!」
その言葉を聞いたミドリが、ピクリと眉を動かした。
「……ミドリ先生?」
ナギサがミドリに声をかけたその時、ミドリの通信機から着信音が鳴り響いた。
ミドリは無言で通信に出た。
「ミドリ、今時間……」
「言われなくても今から行くよ」
「え?」
通信機から聞こえてきたのはクロフォードの声。だがミドリはクロフォードの言葉を遮った。
「ちょうど今行こうと思ってたんだ、すぐに行く」
「……あ、ああ、頼んだよ」
ミドリは通信を切ると、立ち上がりながら言った。
「悪いけど今日は早退させてもらう。多分このままSReDの仕事に行くことになると思うから。ナギサ、ERは任せたよ」
「……了解しました」
ナギサは若干困惑しながらも、ミドリの申し出を受けた。
ミドリは休憩室を出ながら、てへぺろに連絡を取った。
「てへぺろ?今ってネーダもそっちにいる?悪いんだけど、二人で至急司令室まで来てくれ。クロフォードの話に付き合ってほしいんだよ」
セントラルタワーでてへぺろとたちと合流し、ミドリたちは司令室へと向かった。
「やあ、急に呼び出して……」
「マノンの件でしょ?」
ミドリはまたもやクロフォードの言葉を遮った。
「知ってたの?」
「詳しいことは知らないけど、マノンが倒れたってのは聞いたよ。ナギサが小耳にはさんだみたいでね。だからさっさと詳細を教えてよ。マノンに何があったのか」
「……わ、わかった」
いつもと様子の違うミドリに困惑しつつも、クロフォードは3人に状況を説明した。
マノンが一度に大量のフォトンを使用する「オーバーブースト」と呼ばれる能力の使い過ぎで倒れたこと。その影響で体内のフォトンが完全に枯渇し、自然回復ができない状況に陥っていること。
「え、それって、アレを使えばいいんじゃないですかっ?」
話を聞いていたネーダが、突然声を上げた。
「アレって?」
「ええ~っと……ふぉ、ふぉとんまきまきまいざー?っていう装備ですっ!」
「フォトン巻き巻きマイザー?」
「……ネーダ、『フォトンマキシマイザー』、ね」
「あ、あう、す、すみません……」
ネーダの可愛らしい間違いに、ひりついていた空気が和らいだ。ずっと険しい表情をしていたミドリも、一瞬いつものへらりとした表情に戻り、苦笑しながらフォローする。
「え、なんだい、その『フォトンマキシマイザー』って?」
クロフォードの問いかけにはネーダが答えた。
「わたし、前にわたしの中にいた『何か』に、身体の自由を奪われちゃったんですけど、そのとき、ミドリさんたちがフォトンマキシマイザーでたくさんのフォトンをくれたおかげで、その『何か』と分離することができて、さらに新しい力も使えるようになったんですっ!」
「ネーダっちの中にいた無数の異能力者たち…… そいつらをはじき出すために、ネーダっちに大量のフォトンを供給する必要があったってわけさ☆ 」
フォトンマキシマイザーの開発者であるてへぺろも補足する。
「ですですっ!だからそれを使えば……!」
「いや、それは無理だ」
ネーダの提案を、ミドリは即座に却下した。
「え…… どうしてですか……?」
ネーダが尋ねると、その答えはてへぺろから返ってきた。
「フォトンマキシマイザーは、確かに急速に大量のフォトンを供給できる。けど本来あれは、たくさんのアークスに同時にフォトンを供給する目的で設計されていたんだよ。レスタサインやリバーサーサインを使う余裕がないような現場で、戦っているアークスたちのフォトンを回復させるために、ね☆
にもかかわらず君一人のために使ったのは、ある程度の余剰フォトンは、その『何か』…… つまり『グリーヴァス』の弱体化に回ると判断したから、そして何より、君の中に真の力が眠っている可能性に賭けたからさっ☆
……いくらルシエランといえども、そういう特異体質の無いアークスじゃ、 間違いなく耐えられない」
「そんな……」
落ち込んだ様子のネーダに、ミドリは優しく声をかける。
「大丈夫だよ、クロフォードがわざわざ僕を呼んだってことは、何か既に策があるってことだと思うよ。そうでしょ?」
「あ、ああ、そうなんだけど…… 驚いたな、まさか僕たちの考えていることと似たようなことを、すでに君たちがやっていたなんて……」
「え…… 本気でフォトンマキシマイザーを使うつもりかい!? 確かに僕はナギサから今回の原因にマノンのフォトンが関係してるって聞いて、何かの参考になればと思っててへぺろとネーダを連れてきたよ?けどまさか本気でやるなんて……!」
「もちろんそんなことはしないよ。ただ、理論的には似ているんだよ、マノンくんを救う方法が」
「理論的に? ……詳しく聞かせてもらおうか」
クロフォードはマノンを救う策について説明した。
ライサスの資料から、「リミナルサイン」と呼ばれる虹色のフォトン結晶が有効であることが分かったこと、岩陰や洞窟などの暗い場所で夜間に入手できること、実際に枯渇した体内のフォトンを回復させる効果があったものの、リミナルサインの数が足りていないこと。
「これから、全アークスに協力を依頼するつもりだけど、ミドリをはじめとした特別救助分遣隊のみんなには、特に最前線で……」
「言われなくても、だ」
「え?」
またもやミドリがクロフォードの言葉を遮った。
そして次にミドリが放った言葉は。
「ふざけんなよ、あの大馬鹿野郎……」
それはミドリらしからぬ、荒れた口調の言葉だった。
「ミドリ……?」
「ミドリさん……?」
「ミドリン……?」
3人が心配そうにミドリの様子を伺い、ほぼ同時に気づいた。
ミドリの拳が、血が滲みだしそうなほど、固く、固く、握られていたことに。
「……今から言うこと、星渡りやアイナたちには、内緒にしてくれるかな。かなり僕の憶測が混じってるし、何より、彼らを動揺させたくない。」
「……わかった。」
クロフォードが応じると、ミドリは静かに切り出した。
「……たまたま一度だけ、マノンの戦いの様子を見たことがある。オーバーブーストと思われる力を使った瞬間も。
あの時のマノンは…… まるで、自分のことなんてどうでもいいと思っているというか、死ぬために戦っているというか…… そんな感じに見えた。彼女のことだ、多分、リサージェントアークスの頃の罪を償おうとでも思ったんだろう。
でもそれは違うんだよ!死ぬ気で戦うことと、死んでもいいと思って戦うことは違う!戦場での戦いは、自分のダメージを最小限に抑えることも必要だ。死んでもいいと思って自らを犠牲にして戦うなんて、愚かしいにもほどがある!
それに罪を償って死んだところで、結局また多くの人たちを悲しませることになる!本当に罪を償いたいなら、生きて罪を償えって話だよ!
……少なくとも僕はそうだ。僕は元の世界で多くの命を奪ってきた。だけど、このままのうのうと死んだらその罪から逃げることになる。そう思って、今までずっと生きてきたんだ。」
3人は悟った。ミドリがマノンと自分を重ねていたことに。
似たような過去を持つからこそ、マノンの心境に気づき、そしてまたそのことが許せなかったのだろう。
「……だから絶対に救う。このまま死なせたりはしない」
ミドリは固く握っていた拳をふっと緩めて言うと、通信機を起動した。
「SReD全隊員へ。部隊長の権限において緊急招集命令を発動する。非番の人員も含め、現場活動中の者を除く全隊員は直ちにER大会議室へ集合せよ、繰り返す、全隊員は直ちにER大会議室へ!」
ミドリは通信機を切ると、クロフォードに言った。
「……要するに、リミナルサインを集めてくればいいんでしょ?SReD総動員で探索にあたらせるよ。もちろん僕もね」
「あ、ボクも協力するよ☆ リミナルサインの解析が進めば、フォトンマキシマイザーの小型化と改良ができるかもしれないしね☆ 興味深い研究テーマだよ……!」
「わ、わたしも、協力したいですっ……!」
ミドリ、てへぺろ、ネーダ。全員が協力の意思を見せた。
「みんな…… 本当にありがとう」
「クロフォード、マノンたちのこと、よろしく頼むよ」
ミドリはそう言うと、ERの大会議室に向かった。
大会議室に着くと、すでに多くの隊員が集まっていた。
副隊長のエリアスがそっとミドリに耳打ちする。
「……ここだけじゃ収まらなかったので、一部の隊員は本部や現場付近の拠点から会議に参加します。それから、有志のER職員の方も同席します」
「有志の……?」
ミドリが会議室の後方に目をやると、モモや受付担当のガレフの姿があった。
「……分かった。ありがとね、エリアス」
ミドリは礼を言うと、会議室の前方に立った。
「みんな、急に集まってもらってすまない。
既に司令部からも連絡があったようだが、現在、マノンというアークスが、体内のフォトンが枯渇するという非常に珍しい症状で治療中だ。彼女を救うために、リミナルサインというフォトン結晶が必要だが、数が足りていない。
司令部からの要請を受け、SReDはこれより、リミナルサイン探索作戦を発動する。具体的には、夜勤を通常の2倍に増強し、増強に充てられた班に関しては、リミナルサインの探索を専門に行ってもらう」
SReD隊員のミイナから質問が飛んだ。
「ミドリ隊長、作戦中の指揮体制はどうなりますか?」
「指揮担当の隊員はシフトから外れて、勤務時間が原則固定になる。作戦中は僕が夜勤に入るよ。ERの夜勤を兼任する形になる日もあるから、つねに探索に行けるとは限らないけど、指揮は常にとれるようにしておく。エリアスはしばらくの間日勤の指揮を頼む。ミイナは夜勤メインで、僕がERの夜勤に入る日の現場探索と、エリアスが休みの日の日勤指揮をお願いしたい。多分、ミイナが日によって生活リズムが変わってくるから一番キツイと思うんだけど、任せても大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です!」
「ありがとう、やってみて大変そうならエリアスと役割を交代することも考えるから、無理しないでね。」
ミイナの質問が終わると、続けてモモから質問が飛んだ。
「ミドリンいきょ……たいちょー!」
「別に医局長でもいいよ~、で、どうしたの?」
「わたしもたんさくにきょうりょくしたいです!」
「ありがとうね、モモ。すでにERの有志がいるって話は聞いてるよ。有志については、公休日に限り深夜0時までSReD隊員同席のもとで探索に入ることを許可する。もちろん、報酬もちゃんと出すよ。ただあくまでもERの仕事が最優先だから、決して無茶をしないように!日が出てる間はきちんと休むんだよ!」
「は~い!」
モモが元気よく返事をする。
ミドリは最後に全員に向かって言う。
「傷ついたアークスを救うために、各リージョンを探索する…… まさに特別救助分遣隊にうってつけの任務だ。総力を挙げて、リミナルサインを収集し、マノンを救うぞ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおっ!」
会議室にいた隊員たちが、誰からともなく鬨の声を上げた。
「以上で会議は終了!各隊員は直ちに作戦行動に移れ!」
ミドリの指示で全隊員が一斉に行動を開始した。
全ては、一人の大切な命を救うために。
妄 想 爆 発 。
第6章4節を見た後、絶対これミドリさんなら黙ってないでしょって思って書きました。後悔はしていません。
今回、多分にウル〇ラマンネクサスのセリフと似たようなセリフが含まれてます。ちょうど今の時期見ていたってのもありますが、とあるキャラクターとマノンの戦い方が似てるように感じたので、そこそこ意図的にセリフを似せた(というかほとんど同じ?)つもりです。
中の人的に第6章4節はメインストーリーの中でも好きな話なので、こんな駄文でお目汚ししてもいいのかと思いつつ、やっぱ我慢できませんでしたすみません()
時間があるときに推敲したいなあ……