つぐみのストーリーログ:021:その力の持ち主は

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「記憶喪失の男が呟くように言った。
 先日ひとつ記憶を取り戻した。ただこの記憶は取り戻したのか。それとも思い込みなのか分からない、と」
(オリバー・ディタンズ「記憶の道」の一節より)

つぐみの利用方法は石を渡されたときに理解した。私の身体の代役なのだと。

長く歩いていたので休憩をとることにした。火を起こし、近くにある岩に腰を掛けていた。
私は腰につけた袋から石を出す。手のひらに収まる小さな結晶のような石。内部に赤色の液体が封じ込めるように入っている。
この石をかざして念じれば、その物の身体を乗っ取れるのだと。理屈は分からない。ただこの仕事の切り札になるかもしれない、と言われたものだった。

石から目を離し、向かい合うように座るつぐみを見た。
背恰好は似ている。髪の色や瞳の色は違うので見分けがつかない訳ではないが、逆にそこを見なければ一瞬分からないかもしれない。

「どうしましたー?」
相変わらず間延びした口調でこちらを見て聞いてくるつぐみ。
「いや、何でもない」
言葉短めに答える。
「そうですかー?えへへ、何かあったら何でも言ってくださいねー」

そういうと変な方向を見るつぐみ。
いつものつぐみの癖だった。