ぬこの過去

【過去1:出会い】

~???~
「お前たちは感情を捨てよ。お前達には必要無いものだ。」
無機質な部屋に響く声。
「今の所安定しています。」
「どの数値も異常が見られませんね。」
白衣を着た集団に囲まれてる。
ここはどこだろう?何も分からない。
白い壁に囲まれた部屋。見たことない機械。
「よし。順調だな…。次のフェーズに移行する。この実験が成功すればこの国は、いや世界は私たちの物に…。」
そこで意識が途絶えた…。

~王国貧民街~

布切れで出来たボロボロの服。
手足は傷だらけで右腕にいたっては化膿し悪臭を放っていた。
意識が朦朧とする。
私はいま湿った薄暗い路地裏を彷徨っていた。飢えを凌ぐため盗みを働き生き長らえていた。しかしそれももう限界に近い。
何のために生きているのか?
この世界のことも、自分の名前すらも知らない。
もうどうでもいいや。考えることも億劫になる。このまま寝たら楽になれるかな?
そう思っていたとき。
「お嬢ちゃん。このまま寝て天国に行くか。地獄みてぇなこの世界で俺たちとバカ騒ぎするかどっちがいいか?」
目の前にはまるで熊のような大きな体。
頭から足元まで黒いローブで覆われている
大男がこちらに手を差し伸べていた。
私は無意識にその手の指を握っていた。
「決まりだな」
黒いローブのフードから大男の口元が見えニヤリと笑うのが見えた。


【過去2:私の名前】

〜15年後〜

この世界は1つの王国1人の国王によって統治されていた。貴族以外はまともな生活も出来ず庶民は奴隷。そんな制度を作り上げたのもこの王国の国王。
逆らうものは即死刑。逆らわなくても気分次第で殺される。そんな地獄みたいな世界。

そんな王国の辺境にたたずむ砦に私たちは住んでいる。
「今日からお前の名前は‪”‬ねこ‪”‬だ!」
そう全身黒ずくめの大男が大声で言った。
朝からうるさい。
このうるさい大男。この人が私を拾った張本人。この世界で暗躍…はしてない殺し屋集団、
死神の宴(タナトス・ヘスティアーマ)のリーダーである。名前は知らない。皆が彼のことを「先生」と呼ぶので私もそう呼んでいる。
殺し屋集団と言っても誰彼構わずターゲットにしている訳では無い。この地獄を作った王国の貴族達を標的に奴隷たちを解放する為に戦っている。まぁやっている事は殺しなのであまり褒められたものではない。
そんな集団の中で私は武器の扱いや殺しの術を一通り叩き込まれ、今では共に任務に当たっている。

…ん?いま先生は私のことを‪”‬ねこ‪”‬って言った?
「それ…私の名前…?」
「おう!ミルク好きだし。猫みてぇに自由気ままだからなー」
「‪”‬ねこ‪”‬って、ペットじゃあるまし、可哀想だろ」
先生の右隣にある木箱に座っている人物が口を開く。
炎のように赤く長い髪の毛をハーフアップで纏めている長身で細身。パッと見、女性にも見える中性的な外見をしている男性。
名前は桜花。この死神の宴のサブリーダーを務めている。
「なら‪”‬ぬこ‪”‬にしよう!何処からともなく、ぬって感じで現れるだろ?どうだ?」
ぬって何?この人の感性は良く分からない。まぁ理解しようとも思わないけど…
「なんか悪化してね?」
「名前なんて何でもいいですよ。好きに呼んでくれて構いません。」
「ほら!コイツもこう言ってるんだ。なら決定な!」
上機嫌になる先生と呆れてる桜花。
「いや待てよ。ド派手な名前でもいいかもな…例えば…」
「ぬこでお願いします。」
遮るように言った。
名前なんて何でもいい。そう思ったけど何だか嫌な予感がした。
この人は派手なのが好きらしい。私が属するこの殺し屋集団の名前も、
死神の宴(タナトス・ヘスティアーマ)ってなんともいえない名前を付けている。
それから殺し屋なのに暗殺とかじゃなくて正面からぶつかるスタイルである。どうせ殺るなら派手にやって目立ちたいだろ!とのことらしい。

……なにそれ?
って最初は思っていた、いや今も思ってるけど理解できないと思うから考えるのをやめて全て言われた通りに行動している。
私の今着ている服も
「お前表情暗いし、性格も暗いから服装くらい派手にするぞ」
と言われて灰色がかった袴に真っ白で背中には龍の刺繍が入っている羽織を着ている。
うん。凄く派手。少なくとも殺し屋の服装ではないと個人的には思う。
まぁ殺しの邪魔にならなければいいのでもうどうでも良くなっていた。
そんなことを考えていると先生に殺しの依頼要請が入る
「さてと、仕事の時間だ。桜花、皆を集めろ。」
さっきまでの先生とは打って変わって仕事モードの先生になると場の空気が一気に張り詰める。
「了解。」
そう答えると桜花は皆に合図を送る

「さてと。いっちょド派手に悪党成敗しますかな!!」
そう言って先生は砦の扉を開けた。

殺しの依頼。奴隷たちの解放。貴族から奪ったもので仲間との宴会。そしてまた依頼。
王国を壊すまでこんな毎日がずっと続くとそう思っていた。
あの知らせが来るまでは…