文書の過去の版を表示しています。
「記憶喪失の男が呟くように言った。
先日ひとつ記憶を取り戻した。ただこの記憶は取り戻したのか。それとも思い込みなのか分からない、と」
(オリバー・ディタンズ「記憶の道」の一節より)
???
つぐみの利用方法は石を渡されたときに理解した。私の身体の代役なのだと。
長く歩いていたので休憩をとることにした。火を起こし、近くにある岩に腰を掛けていた。
私は腰につけた袋から石を出す。手のひらに収まる小さな結晶のような石。内部に赤色の液体が封じ込めるように入っている。
この石をかざして念じれば、その物の身体を乗っ取れるのだと。理屈は分からない。ただこの仕事の切り札になるかもしれない、と言われたものだった。
石から目を離し、向かい合うように座るつぐみを見た。
背恰好は似ている。髪の色や瞳の色は違うので見分けがつかない訳ではないが、逆にそこを見なければ一瞬分からないかもしれない。
「どうしましたー?」
相変わらず間延びした口調でこちらを見て聞いてくるつぐみ。
「いや、何でもない」
言葉短めに答える。
「そうですかー?えへへ、何かあったら何でも言ってくださいねー」
そういうと変な方向を見るつぐみ。
いつものつぐみの癖だった。