ある夜の日

「――システムを終了しました。装置を外してください」

音声の後に、オグマは装着していたゴーグル型の機械を外した。

「…ふう…っ」

機械を机に置き、周りを見回す。アパートの一室、自分の部屋だ。
さっきまでの感覚がまだ残っている。武器を手にし、モンスターと戦う、まるで本当にそうしていたような感覚。
残った感覚を取り除くために、体を伸ばしながら時計を見る。時間は夜中を指していた。ざっと4~5時間は遊んでいただろうか。

「…また沢山遊んじゃったな…課題もまだ残ってるし、やらないと…」

幸運にも今日は週末。休日も使えば課題は問題なく終わる。さて、どれから手を付けようか…と、考えていると、

ピンポーン。

玄関の呼び鈴が鳴った。こんな時間に誰だろうか。
オグマが急いでドアを開けると、そこには見慣れた女性が立っていた。

「はぁい♪オグっち、元気?」

長身でスタイルの良い、褐色の肌に薄ピンクのロングヘア。そしてこの辺りではあまり見ないとがった耳。この女性はクロイ。オグマが住むアパートの隣の部屋の住人である。
オグマは彼女をお姉さんと呼んでいる。理由はクロイがそう呼ばれたいと言ったから、らしい。

「あっ、お姉さん、こんばんは…」

「ちょっとバイト先で余り物もらいすぎちゃって、よかったらあげるわね?」

よく彼女は、こうして色んな物をオグマにおすそ分けしている。今日はバイト先からの物らしい。

「あっ、ありがとうございます…っ、えっと…」

「お菓子に冷凍食品、それと化粧品ね。期間限定だけど売れ残っちゃったの、中身は問題ないわぁ」

「すみません、こんなに…」

「いいのいいの、あたしが好きであげてるんだから♪…それよりさ、どう?」

突然、クロイが別の話題を振って来た。

「えと…どう、って…?」

話題が変わったことは分かるが、突拍子もなくて何のことかまでは分からない。クロイと話すとよくあることだ。

「それよ、そ・れ。さっきまで遊んでたんでしょ?」

クロイがオグマの手を指さす。さっきまで使っていた機械とセットの、グローブ型の機械をはめたままだった。どうやら、「ゲーム」のことを言っていたようだ。
それは最近この地域で流行し始めていた、最新の機械を用いて遊ぶゲームだった。

「あっ…そうですね、楽しめてます」

「そぉだけど、そぉじゃなくてぇ。お友達よ、できたの?」

クロイが急かす様に聞く。

かつて、オグマには親友と呼べる相手がいた。が、その親友はある時を境に「消えて」しまった。
誰に聞いても、まるで初めからいなかったと言わん素振りで、その親友の行方は分からずじまいだった。
落ち込むオグマを心配しクロイが勧めたのが、件のゲームだった。彼女はオグマに友達を作ってもらいたくてこのゲームを勧めたたようである。

「そ、そういうことでしたか…えと、それが、チームに入れてもらえて、そこでお友達が」

「わぁ♪よかったじゃないの!おめでと!」

できた、と言う前にクロイに抱きしめられた。相当うれしかったのだろう。

「あわ…」

オグマ自身、彼女と知り合って長いが、感情表現豊かな性格に驚かされることは今でも多い。

「あっ、ごめんねぇ。でもよかったわぁ、おねーさんもお勧めしたかいがあったってものよぉ♪」

「あ、はい…それについては本当にありがとうございます」

「いいのよ♪ねぇ、そのお友達について色々と教えて?」

「はいっ…あ、お部屋、入りますか…?寒いですよね?」

「そうね、お邪魔させてもらうわぁ」

クロイはオグマの新しい友達が興味があるらしい。自分が勧めたものでできた縁なのだから、気になるのもうなずける。
オグマは彼女を自分の部屋に入れて、話をすることにした。

「えと、そのチームがラッピー捕獲隊っていう名前で――」