たまにはまじめな後日談

「…君はいいヒト達に出会えたようだな。安心したよ」

オグマは今、病院の面談室でヴェータと対面している。
というのも、意識を取り戻し、健康状態の確認の後に軍部から事情聴取の要請を受けたためであった。
事情聴取の場所が軍部の取調室ではなく病院だったのは、意識を取り戻して間もないオグマの心身の負担にならないようにとのヴェータなりの配慮だ。
面談室内に他の人間はおらず、記録用の録音端末が机の上に一つ置かれているだけだった。
そして、対面したはいいものの、何から話せばいいか戸惑っていたオグマに、ヴェータがかけた言葉が冒頭の一言だった。

「え…?それは、えっと…?」
何を聞かれるのか身構えていたオグマにとって、その言葉は予想外だった。

「向こうで君の所属するチームの者達に会った」
オグマを困惑させないように、ヴェータは丁寧にいきさつを話していった。

「あ、えと…捕獲隊の皆さんの事…ですか?」
オグマも事情が呑み込めたようで、ようやくきちんとした返答ができた。

「ああそうだ。第一印象としては少し個性が強かったが…君は無事に打ち解ける事が出来ていたようだな」
「そ、そうですね…確かにこっちじゃまず会えない個性的な方ばかりで…でも、とても良い方達で…」
捕獲隊の面々への印象を話す二人。どちらも共通していたのは個性の強さと人柄の良さだった。

「面と向かって言うことではないのは承知だが…かつての君は、孤独と心の闇に苛まれていたようだった。集団や社会的強者からの力に抑えこまれていた」
少し話をした後に、ヴェータが前にオグマと会ったときの印象を話した。その時のオグマはクロイや「あの子」とも会う前の、最も弱いころの姿だった。

「…」
オグマも思い返す。心身共に傷付けられ、全てが信じられなくなり、消えない傷を付けたその時を。

「だが…今の君からはそういった負の側面を全く感じない。捕獲隊の者達との交流が君を変えたのだな」
「…はい…皆、私の事が大切だって言ってくれて…うれしくって…」
ヴェータの言葉に反応して、オグマは事件の間にハルファでどんな話をしたのか、どんな言葉をもらったのかを話し始めた。途中、何度か感極まって泣いてしまったが、その間もヴェータは話を聞いていた。

「…君は本当に恵まれた出会いをしたのだな。大事にするといい」
一通り話を聞き終え、ヴェータは餞別の言葉を贈った。その表情は安堵の表情にも、羨望の眼差しのようにも見えた。

「…はいっ…」
まだ涙目のまま、オグマは返事をした。

「それでは…君は家に帰って体を休めるといい。事件に関する話は詳しい者から聞く」
オグマが泣き終えて少しして、ある程度落ち着いてからヴェータはオグマに聴取の終わりを告げた。

「…え、まさか、捕獲隊の皆から…」
聴取の終わりに安心すると同時に、最後の言葉に動揺するオグマ。

「それは違うと明言しておこう。君がプログラムをもらった学友がレジスタンス活動をしていた、そちらから件のプログラムの入手元など聞いていくつもりだ」
ヴェータは事件について分かっていることの一部を説明した。ただ、この情報がハルファで得られたものであったことは隠し、オグマの誤解を解くことに注力した。

「えっ…、レジ…?」
「その様子だとやはり知らなかったようだな。ならば尚の事君から話を聞くのは酷というものだ」
クラスメイトがレジスタンスの構成員であったことにさっきとは別の動揺が隠せないオグマに、ヴェータがフォローの言葉を入れる。

「その、すみません…本当に何も知らなくって…」
事件の詳細を何も知らなかったことに罪悪感を感じるオグマ。

「気にすることはない。君は市民で、私はその市民を守る義務がある。君(市民)ができない事を成し、知らない事を調べるのも私の仕事だ」
オグマに非がないことを伝え、これが自身の仕事であることを説明するヴェータ。
その時、外で物音がしたと同時に面談室の入口にはめてあるすりガラスから、ピンク色の人影が見えた。

「…さあ、戻るといい。外では君の保護者が待っているようだ」
「あ、クロイお姉さんが外に…あ、はい…ありがとうございました…っ」
察したヴェータはオグマに戻るよう促す。気付けば聴取は予定の1時間を大きく過ぎていた。
オグマも、時計とクロイと分かる人影を見て、慌てて面談室を後にした。

「…さて、次だ」
ヴェータは机に置いた録音端末のデータを保存し、次の事情聴取の相手を待つ。
オグマの夜は明けたが、彼の一日は始まったばかりだった。