オペレーターの受難・2

養成学校への入学を両親に認められなかったあの日から、俺はシップの市街地でストリートチルドレンとして暮らしている。
もう親元には戻るまい。そう心に決めて街の路地で暮らし始めたものの、まだ13歳の子供が、何の保護もなしに外で生きていくのは非常に厳しい。当たり前のようにあった食事も、寝床も、それらを得るために必要な金すらない。全て自分で確保しなければならなかったのだから。
お前は親がいなければ生きてはいけないと、見えない誰かに嘲笑われているようで、うざい。

俺の一日は、誰も寄り付かないような街の裏路地から始まる。一日に行うことは、メシと喧嘩。
その日の食べ物は、ほとんどを盗みで賄った。最初の頃、落ちている食べ物を拾って食べることもあったが、それのせいで腹を壊してからはやめた。

腹を満たしたら次は喧嘩。俺と同じようなストリートチルドレンを相手に、何もしなくても積もっていく苛立ちを発散する。自分で言うのもなんだが、俺は喧嘩は結構強かった。

治安維持のために見回っているアークスに見つかると、問答無用で親元に突き返されるだろうから、見つからないようにコソコソと隠れる必要があった。だから、人の多い昼間はろくに歩けない。
親の庇護から外れ、頼れる者は誰もいない。本当に一人きりの生活だ。けれど、俺はそこそこ楽しく感じていた。

ある日の夕方。

「君、セナ・グラース君だね?」

不良少年の集団との喧嘩帰り。誰にも見つからないように裏路地を歩いていた俺に、一人のアークスが声を掛けてきたことにより、そのそこそこ楽しい生活が終わりを告げたことを知る。
今日の喧嘩はいつもよりも少々派手だったから、それで気付かれたんだろうか。まあ、見つかってしまった今となってはもう遅い。

ああ、帰ったら叱られるんだろうな。また父さんに殴られるかな。場数を踏んだ今では避けた上で殴り返せ……ないかも。父さんベテランアークスだし。

「……だったら、なに」

ぶっきらぼうに答えつつ、振り返ると、そこには中年の男性アークスが立っていた。
にこやかな笑みを浮かべるそいつは、俺の腕をかなり強い力で掴んでいる。逃がしてくれる気は一切なさそうだ。

「親元へ帰りたくないんだろう?だったらいい場所を紹介しよう」

「は……?」

てっきり諭されて家へ強制送還かと思いきや、この発言。怪しさ全開だ。
家出少年を諭すでもなく相応の場所へ突き出すでもなく、いい場所を紹介するだなんて疑うなという方が無理だ。
このタイミングで紹介される「いい場所」なんて、どうせろくでもない場所だ。家出少年に好待遇はない。

何も返さない俺に対し、さっきの喧嘩見てたよ、と男は続ける。
 
「怪しい場所じゃないさ。君のその、暴力と呼べる力をもっと正しく行使できるようになるための場所だ」

「暴力を、正しく行使?何言ってんだあんた」

男へ言葉を返しつつ、俺の中には一つの可能性が浮かんだ。
暴力……つまりは戦う力。それを正しく行使する存在といえば……。

はっとして男を見る。
 
「おっさん、もしかしてそれって、」

「アークス養成学校だよ。一緒に来るかい?」

男の手がこちらに伸ばされる。肉刺や小さな傷が幾つもついた、まごうことなき戦士の手。
その手を振り払う、という選択肢は存在しなかった。
手を取った俺を見て、男はにかっと笑う。

「今日から君はアークス訓練生だ。私は教導官のダン。よろしく頼むよ」