「……。」
僕はERのセンター長室で、一人じっとモニターを見つめていた。
そこに映っていたのは、重傷を負い、意識不明となったウタウの姿だった。
何者かの狙撃を受け、重傷を負ったウタウ。
僕はすべての責任を負う覚悟で、ラエルから託された治療薬を投与し、ERへの搬送の時間を稼いだ。
懸命の治療の末、ウタウは一命をとりとめた。だが、彼の意識は、戻らないままだった。
「……センター長、か」
僕は呟きながら自嘲気味に笑った。
ERに着任してからの肩書にも関わらず、どこか違和感を覚えるのは、僕が今までその肩書を名乗っていなかったからだろう。
僕がセンター長だという事実は意図的に伏せるようにしていた。
最前線に立つ部下たち…… 否、仲間たちと同じように、喜びも悲しみも、すべて分かち合いたい。仲間たちとともに、一つ一つの命を救っていきたい。そう思った。
だから僕は医局長を名乗り、本来のセンター長の業務をナギサに丸投げし、ずっと現場で動いてきた。だけど……
「……今この状況で、医局長なんて名乗ってられないよね」
ラエルから託された「治療薬」の副作用。それは、ウタウの精神が暴走する可能性があるというものだった。
精神が暴走すれば、たとえ仲間であっても、容赦なく牙を向ける可能性は否定できない。
それでも僕は、この「治療薬」を使うことを決めた。
一人の命を救うために、捕獲隊の仲間たちという多くの命を危険にさらすかもしれない決断をした。
そして僕が危険にさらしているのは、捕獲隊の仲間たちだけじゃない。
彼が目覚めたとき、投与した「人ならざる者の遺伝子」が覚醒し、暴走する可能性が考えられる。もっとも、投与直後の彼は普段と変わらない様子をしていた。だからきっと、この副作用を跳ね返してくれると僕は信じている。
だがその可能性を知ったうえでもERで受け入れたということは、つまるところ、ERの仲間たちの命をも危険にさらすかもしれない決断をした、ということだ。
もちろん、このままウタウが目覚めないまま、力及ばず……という最悪のパターンも、考えたくはないが想定しなければいけない。
仲間たちの命。患者の命。
多くの命が、失われるかもしれない。
「……その責任を負えるのは、センター長だけだ」
僕はいつもの白衣を脱ぎ、新しい白衣に袖を通した。
いや、白衣自体はERに着任した時に、センター長用の白衣という名目で既に受け取っていたものだった。
今までは医局長を名乗っていたから、この白衣に袖を通すことはなかったが。
白衣に袖を通し終えたタイミングで、通信機が鳴り響いた。
通信元は司令部。今回の一件についての連絡だろう。
僕はひとつ息を吐くと、通信機に向かって言った。
「こちら、セントラルERセンター長、澄石ミドリだ。」
あとがき
先日のイベントにて、「ERのセンター長はミドリだった」という隠し設定をしれっと公開しました。
そこから急に書きたい欲が沸いてしまって書いたのがこの話です。
ミドリがずっと「医局長」と名乗っていた理由、そしてなぜセンター長を名乗ったのか。そのあたりを描きました。
ただ、衝動の赴くままに書いたので、後々推敲とかするかもです。
ちなみに、医局長としてのミドリは名前だけの「ミドリ」、センター長としてのミドリはフルネームで「澄石ミドリ」と名乗っています。
なので誰かに感づかれたら同名の別人ってことで通してたんでしょうね多分。
ということで、センター長になったミドリもよろしくお願いします。