壱話_魔女に愛されたおんな

 ラッピー捕獲隊。
特徴的なアークスが集うチームには「三鯖一家」と呼ばれる3人がいる。
混沌の若き少女、ネオセレッサ。
記憶の無い老兵、デニス・ラヴェール
隔離の崇拝青年、シュペート・ブルグンダー

ネオセレッサとデニスがチームに所属しており、シュペートは傭兵としてチームに名を乗せている。
この3人は血の繋がりも無ければ、元々はただの他人だ。
だが些細な事が積み重なり、やがて3人……正確には4人は住み慣れた世界を離れ、新しい同じ世界の土地を踏んだ。

すったもんだの3人組。見るも滑稽なちぐはぐの家族。

そんな家族は、時折、こんな小噺をする……。

take0 魔女に愛されたおんな

夜の8時、ネオセレッサが作る食事も美味しく頂いた3人は各々片付け、読書、資金整理等を行っていた。

ふと、家事を終わらせたネオセレッサはソファーに座り、本を嗜むデニスの隣に飛び込むように座ると顔を近づける。

「ねぇ、デニス〜。僕、暇だよぉ〜!」

「おぅネオの嬢ちゃん、ご苦労さん。そうかい暇かねぇ。そんじゃぁ、久々におじさんの謎解きでもするかいぃ?」

本を閉じ、眼鏡を外したデニスはネオの頭を撫で、ほんの少し悪い顔をしながら提案を告げる。ネオは撫でられたまま嬉しそうな顔をするも、少し頬を膨らませる。

「やりたいけど、僕いつも解けないもんっ。」

「ガハハハッ!そりゃぁ簡単によぉ解けたらつまらんだろぉ?」

「もー!でもやりたいっ!デニスのお話、僕好きだからっ。」

「謎解きだって忘れてないなぁ?おーい、シュペ坊、お前さんも来ないかぁ?ネオの嬢ちゃん1人じゃぁ寂しいだろぉ?」

デニスは少し離れたところでホログラムを触る青年に声を掛ける。青年はその端正な顔を向けるとホログラムを閉じ、少々機械的な足取りで隣に座る。

「分かりました。ですが、デニス様。そろそろその渾名は如何なものかと。」

「そぉかい?己はぁお気にいりだがなぁ。」

「シュペート!デニスが謎解きしてくれるから、一緒に解いて!」

「そうだと思いました。いいでしょう、ネオ様。一緒に解きましょうか。」

シュペートが微笑めばネオセレッサはありがとう!と笑顔を向ける。間に挟まれた老兵は目を細めて見守れば2人の肩を抱く。

「よぉし、それじゃあ今日は、魔女の話でもしよぉかねぇ?」

「魔女?」

「テクターやフォースみたいな奴さね。」

「そっか!」

「では、問題をお願いします。」

「シュペ坊はツレねぇなぁ……。じゃぁ、よぉく聞いてなぁ?」

そしてデニスは、小噺を紡いだ。

メアという女が、ある1家と新しく暮らす事になった。
メアは美しく、特に繊細な顔立ちと性格はその家の娘のお気に入りだった。時間があればメアを呼び、髪をといたり、話をしたりとそれはもう両親も微笑むほど幸せそうだった。
____しかし幼い息子は、メアをあまり好ましく思っていなかった。姉はメアに奪われ1人になり、文句を言おうとも両親は宥めるばかり。……日が経つにつれ息子は姉である娘にバレない様、メアに残虐的な行為を行うようになった。
ある時はメアの髪の毛を千切り、ある時は熱湯をかけたり。水に沈めたり、服を剥ぎ取って丸裸にして居ることもあった。息子はそれは大層楽しそうにその行為を行っていた。全く悪いと思っていないのさ。
……それでもメアは常に笑っていた。
息子がメアに対して行っていた行為に気づいた娘は、息子からメアを守るため彼女を彼女だけの家に閉じ込めた。
メアは薄暗く、狭い家の中にいる事が多くなり、娘にも歳を重ねることに会えなくなり、軈て誰も来なくなった。
自由に動けぬ日々。それでも笑っていた。

____だがある時、メアに1人の魔女が現れる。

「こんな所でかわいそうに。私が愛してあげよう。」

魔女はメアを家から解放すれば、広い部屋に横たわらせた。

「可哀想なお前を守ってやろう。まずはしょくじだね。おとなしくするんだよ?」

魔女は告げると、その場から姿をくらます。その時、メアの前に昔と殆ど姿変わらぬむすこが、現れたのだ。会ったかれはメアに近づけば腕を引っ張り、首を曲げる。そしてメアに噛み付いたとき、むすこは苦しみ始め、軈て息が出来ず死んでしまった。メアは顔を濡らしながら、微笑むことしか出来なかった
暫くして姿を現した魔女は、倒れたむすこを見つめるがメアの姿を見た途端死んだむすこに気づくことなく、そ知らぬ顔で全身が濡れたメアだけを助け、優しく拭った。

その後、魔女は抱きしめられながら4人は涙を流し、むすことメアを火葬した。

メアは思った。

「私は無力で、されるがままで、誰かがいなくては何も出来ない女でした。人の区別もつかない私を愛してくれた家族を悲しませてしまった私には当然の報いです。
私は誰かを楽しませることが役割でしたから……。」

【何故、むすこは死んだのだろう?】

「ふぇ……どうしてそんな事になっちゃうの……?」

「ネオの嬢ちゃん、こりゃ謎解きだからな?泣くな泣くなぁ。」

「そうですネオ様。答えは出てますよ。」

鼻をかむネオはシュペートの言葉に目を開き、デニスは愉快そうに笑い、顔を向けた。

「おっ、聞かせてくれや。」

「はい。答えはメア様は送り込まれた暗殺者で、一家を殺すためまずご子息に毒を……。」

「シュペ坊。違うから止めるなぁ。」

「おや。てっきりそうかと。」

「シュペートの答えは違うの?」

「そりゃ、メアは何も出来ないって言ってるだろ?まぁ、時間はゆっくりあるからよぉく考えてみな……。さ、語ってたらもう夜も深いなぁ?若いふたりは寝た寝たァ。」

「えー……!じゃあ明日!明日教えてねっ!約束!」

「分かりました。推理しておきます。」

「おーう、誰かが答えりゃ明日にゃ解説するからなぁ。」

そうして、2人が眠りについた時。「もう1人」がデニスの向かいに腕を組み座る。

「爺、もう少し難しいのはねぇのかよ。」

「よぉファルの坊主。お前さんは分かったみてぇだなぁ?」

「ったり前だってーの。歳食って脳が退化してのんかお前。」

「ガハハハッ!記憶がないから强間違いじゃぁねぇなぁっ!」

「この呑んだくれ爺が。笑うくらいならもう少し俺を楽しませる問題を考えろっての。」

「まぁまぁ落ち着けや。取り敢えず答えを聞こうじゃぁないか?」

デニスの発言に溜息を付いたもう1人の家族。…例外存在の少年、ファルセダーは口を開いた。

「犯人はメア。何故なら____」

ファルセダーが淡々と話す姿をデニスは眺めていた。つまらなそうに見える姿の、ちょっとした裏側を楽しみながら。

「____ってわけ。そうだろ?」

「おう、正解だァ。流石ファルの坊主だなぁ。」

柔らかい髪質の頭を荒々しく撫でるデニスにファルセダーは「クソじじぃ!」と叫ぶが顔はほんのり赤みを持っていた。ファルセダーは手を突き飛ばすと椅子を倒す勢いで立ち上がる。

「もう寝る!!アホに変わるからなっ。起こすなよこのクソじじぃ!」

「おうおう、よぉく眠れよォ?」

「【規制音】!!」

羞恥心が酷いファルセダーはそのせいかかなり口も悪い。だがデニスはそれも受け入れ、笑っていた。

「さぁ、誰かが解いたら起きようかねぇ。」

明日の仕事は、するのだろうか?
今日の小噺は、ここ迄。