夏だ☆海だ☆エアリオだ☆

「あ、目線こっちでお願いしまーす!」
「イイねイイねー☆まるで太陽のようだ☆」
「今だけなんで恥は殺してくださーい。あと外野は静かにー」

照りつける太陽、白い砂浜、青い海。
強い日差しによって上気した頬、滴る汗。
視界の端でうるさく揺れている赤髪サングラスに、おもわずうぜえ、と呟きが漏れた。

――ことは2週間前に遡る。

(今日は午後からオペレートが2件……クヴァリスとリテムか。……そういえば、暁明はまたテノ嬢を無茶な場所へ連れ回してないだろうか…)

ミーティングを終え、午後の予定を確認しながら歩いていると、ドン、と衝撃が走った。
前方で「いたっ……」と小さな声が聞こえて、セナは端末から顔を上げた。これだから歩きながら何かをするのはいけないな、と思いつつ、目の前のぶつかった相手へ手を差し伸べた。

「すまない、前を見ていなかった。立てるかい?」
「あ……あー、はい。大丈夫っすよ。こっちも前見てなかったんで」

ぶつかったせいでずれた眼鏡を治しながら立ち上がった少女には見覚えがあった。

ログ・オブザーヴァー。セントラルシティ広報部の撮影スタッフだ。
彼女はシーズナルイベントの宣伝や、アークスの任務取材などを担当しており、シティに常駐しているセナとは顔見知りの間柄である。

ログは大きな瓶底眼鏡越しでもわかるくらいに疲弊しきっており、心配になる。
以前、上司が無茶振りばかりで困るとぼやいていたのを思い出した。

「また仕事が大変なのかい?あまり無理をしないようにね」
「……や、大変じゃない日なんて無……じゃない、すんません、ありがとうございます」

心底ダルそうな声に、セナは、ああ、これは相当キてるなと思った。
そこでふと思い立ち、上着のポケットを探る。ポケットから出たセナの手には、2つのキャンディがあった。
はいこれあげる、とそのキャンディを渡すと、ログは受け取るや否や、包装を解いて一気に二つを口に放り込んだ。

あ、すぐ食べた。この様子だと、まともな食事も摂れていないのだろう。

「ログ嬢。この後時間はあるかい?」
「え……あ、や、んなもんないっすよ……。”エアリオ興し”のモデル探しで忙し……」

そこで、ログがふいに言葉を切った。不思議に思ったセナは、その視線の先を辿る。どうやら自分のすぐ後ろを見ているらしかった。
何だろう、と首だけで振り返れば、そこは一面の”赤”だった。

――ああ、この赤は嫌な予感がする。
セナは思わず顔を顰めた。

「やあやあ☆お悩みごとかな、ログちゃん、セナちゃん☆」

予感的中。
星が散るようなウィンクを見せつけてくる赤髪サングラスが目に入り、セナは手で目元を覆った。