祝呪取り替えロストカラード

祝呪取り替えロストカラード

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何時も過ごしていたこの船、メソッド。
僕はその中で、父上から貰ったヴァイオリンを弾きながら過ごしていた。
母上はその姿を見て、得意の手品を披露してくれる。いつのまにか僕のポケットにホワイトチョコが入った小包が入ってて喜んだ。
怒りなんてなくて。哀しむことなく楽しめる。そんなお呪いの様な手品が好きで。
お仕事から父上が帰ってくると二人で手品を披露する。扉を開ければ祝う様に花火、弾けるフォトン。
とても憧れていた。皆が笑顔になる幸せの手品に。

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でも、その日常は崩れていって。ハルファという星からきたバケモノがシップ内に現れて皆に襲い掛かった。
避難勧告が出て、アークスと…メソッドの防衛機構が働いてバケモノの鎮圧に掛かるけど、このバケモノの装甲が硬くて…
避難勧告の中、僕は一緒に演奏をしていた少女と一緒に避難をした。家族の人達の元へと連れて行って、待っていたけど母上が…戻ってこなくて。
少女とその家族に声をかけた。ヴァイオリンケースと父上から護身用にと貰った拳銃を手にしたまま外へ出る。心配をかけちゃうけど…逃げる途中、バケモノの動きはある程度頭に入っている。逃げ切るのは多分大丈夫…

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父上と母上を探して。あのバケモノから身を隠しつつ周囲を見る…見えたソレを見て身体が勝手に動いていた。
防衛を潜り抜けて襲い掛かった化け物から自分より幼い子を庇う為に、僕は前へ出る。父上から貰った拳銃で胴体を撃ち抜くけど硬くて。ヴァイオリンをケースを盾にしたけど…ソレごと自分の身体が切り裂かれる感覚に襲われる。
でも撃ち続ける、こっちを向いて斬りかかるのを避けて…痛む傷に呻きながら目立つ様に逃げつつ子供から離れさせる…
漸く行き着いた場所は…戦っている父上と、傷だらけの母上。父上は僕を見て凄く険しい顔をして、僕に襲い掛かっていたバケモノの胴体を凄まじい威力のフォトン弾で貫いて。戦っていたバケモノを最後の一体まで。まるでかつて存在した守護輝士様を思わせる戦いぶりで倒していった。

……また助けられた、でも…もう多分ダメだって分かってた。
身体中が凄く痛くて、血が流れて。父上と母上の声が遠のいていく。強く叫んでる、生きろって…死ぬなって。
……何故か涙が出てきた。痛くても泣かないのに。何も出来ないまま死んでいく。
ふと、傷が癒えていく。いや…無くなっていく。

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意識が遠のく中、母上が呻く声が聞こえた気がした。

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起きた時には、血塗れたままの…所々壊れているヴァイオリンを弾いている父上の姿が目に移った。
……父上は何も言ってないのにヴァイオリンを弾きながら話した。僕の母上の事を。
母上は、他人の傷を自分に移す事で傷を癒す事の出来る不思議な力があると。ソレを隠す為に手品師をし始めて自分の力の存在をあやふやにした事と。
その傷を癒す力を、この戦いで使う事で父上を助けた事と…

……本来死ぬと分かっていた僕の傷を自分に移して死んでいった事と、ソレを命令したのが…他でもない、今目の前に居る父上である事。
気が付けば僕は父上に銃を向けていた。心には怒りを超えたドス黒い感情が芽生え始めていた。その顔を見てか、自分を怨んでくれていい…そう呟いてヴァイオリンを置いてから父上も僕へ銃を向けた。
そこから覚えているのは…沢山の銃声と、父上から出る輝く血と…何かを嘆く様な叫びと…

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『生まれた世界を、産まれてきた自分を呪わないでね、コレが親として…遺せる最期の言葉だ。』

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僕はあの後、傷一つなく戻って…でも返り血に塗れながらも避難所へと足を進めた。
手には拳銃、背には壊れたヴァイオリンケースを背負って…僕は家族と共に生きている少女を見て、思わず膝から崩れ落ちて泣いてしまった。
自分に渦巻く感情が…分からなかった。無事だった安堵の筈なのに、哀しくて。妬ましくて。それでもやっぱり此処の皆が大好きだから、この怒りを…理不尽をぶつけるなんて嫌だったから…ただ泣くことしかできなかった。

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何時も過ごしていたこの船、メソッド。
僕はその中で、クソ親父から継いだ拳銃を手にして仕事に出る。
母上はその姿を見ているだろうか、得意の手品を披露してみた。通りかかって見ていた子供はそれを見て喜んでくれた。
でも、壊れたケースを見るたびに僕は怒りを覚えてしまう。その度に誰かも分からない哀しげな声が聞こえて。だから隠す為に楽しげな表情を浮かべる、そんな呪いの様な習慣が嫌いでも。
お仕事から帰ってくると、ハルファで出来た友人の側で手品を披露する。一緒に居られる事を祝う様に、ハルファで採った花を出して。
憧れがいずれ、皆が笑顔になる幸せの手品になるように。